FOCUS
平成17年度 「野村生涯教育講座」 開講
「変動する社会」の中で真の価値を求めて
 この4月、平成17年度の「野村生涯教育講座」が、本部および全国各地の支部・連絡所で一斉に開講した。
 一昨年11月に創設者野村佳子理事長が逝去され、金子由美子新理事長のもとで新体制がスタートして2年目、全国のメンバーは「自らの足で立つこと」を共通の目標として、着実に自己変革の歩みを重ねてきた。
 結果、創設者を失った後も、各講座の研修生の学習への意欲は高まりを見せている。
混迷を極める世界情勢を背景として、社会が抱えるさまざまな問題を自己教育、相互教育の教材として、それぞれが「尊厳の復活」をめざす野村生涯教育の学びは、今年度も各地で確実な成果を上げていくことが期待される。
 急速な社会変動への対処に終始しがちな社会にあって、心や生きがいといった人間の内面的問題への視点がいかに重要かを、いくつかの講座での具体的な討議の模様を取り上げることを通して示したい。


関西社会人・青年講座               
 関西社会人・青年講座では、講義の後の討議の中で、60代の初参加の男性から「講義の中に『自立と生きがい』というお話があったが、退職後の生きがいについて質問したい」として、「長年商社に勤務したが、退職した現在、何もすることがなく、生きがいがない。人生が一回終わってしまったような気がする。[IT時代]に入り、そうしたものが苦手な自分は、ますます時代から取り残されてしまうのではないかと焦る。退職後の生きがいということについて、どのようにお考えか」という発言があった。
 講師を務めた木村英世理事は「右肩上がりの経済成長の時代に30代、40代を過ごした700万人のわれわれ団塊世代が、あと数年で定年退職を迎えるだけに、提起していただいた問題は今後重要な課題になっていくと思います。
 努力をすればしただけの結果が得られた時代に、その流れに私たちの多くが疑いもなく乗ってきたと思いますが、地位や収入といった外側にあるものは必ず変化し、いつか消滅します。そこに価値を求めたらいずれ虚しくなると思うのです。
 しかし、私たちは『野村生涯教育論』と出会い、今を生きている自分の価値とは何か、そこに焦点を当てて、本来の人間のあるべき姿に立ち返ることを学んでいます。
 ですから、何もすることがないなんて、そんなことはないですよ。その自己の価値に気づくために、私は最も身近な夫との関係で、お互いをどう理解し合えるか、どこまで近づき合えるか、そのことに挑戦しているのですが、あなたもそのことから始められてはいかがでしょう。
 野村理事長は『夫婦関係の調整は、国際関係に匹敵する難事である』と言われましたが、それを通してお互いがより深く自分自身を知ることができ、そこに生きる意味を見いだせると思います」と答えた。

静岡支部
 静岡支部講座の開講では、現在、社会問題化しつつあるニート(英語のノット イン エンプロイメント・エデュケーション・ トレイニングの頭文字を取った造語で、就学・就業・職業訓練のいずれもしていない人を指す)について参加者から質問があった。
 「今、講師から『知識の教育から 智慧の教育へ』というお話があったが、最近、勉学や労働に意欲のない若い人にニートといったレッテルを社会が貼るようになり、そうした若者ががますます増えている。
 どういう原因があってそのようなことになっているのか、根本から考えないかぎりこうした問題は一向におさまらないと思うし、行政だけでも、家庭だけでも解決できる問題ではないと思う。そうした実態を、野村生涯教育ではどう捉えているのか、教えてもらいたい」。
 それに対し講師の生形泰子理事は「たしかに家庭・学校・社会の連携の中でしか真の解決はあり得ませんが、やはり根本は家庭にあると思います。子どもに意欲をなくさせているのは、私たち親や大人が自分の価値観を押しつけて、自分の思い通りにしようとするところに原因があるのではないでしょうか。
 具体的な問題と取り組む中で感じるのは、親が子どもの問題を何かのせいにして、自分自身にその原因を見ようとしないことです。
 子どもは、誰か一人、ほんとうに自分を認めてくれる人がいたらがんばれるものです。そこにやはり親のものの見方が大きく影響していると思います。ニート世代の親が団塊の世代であり、その意味でも、まず私たちが自己の価値観を点検し、真の人間の価値にめざめることが最も重要ではないでしょうか」と答えた。

高年講座
 金子由美子理事長がぜひにと願い、講師を務めた高年講座では、今年も学習意欲に燃える高齢者の方々の熱気の中で開講を迎えた。
 金子理事長は講義の冒頭、「人生の先輩の皆さんがお元気に生きがいを持って学ばれている姿に、私たち若い者がしっかりしなくては、という思いになります」と述べ、「私は野村理事長が高齢の方々を大事にされるお姿をずっと近くで見させていただいてきて、自分もそのような人間になりたいと思っておりました」と語った。
 講義の後の全体討議で、この日初めて参加した女性は次のように語った。
 「私は、昨年の暮れに夫を亡くし、茫然自失の生活をしておりました。そんなとき、ある方が熱心にこちらの会にお誘いくださり、今日初めて参加させていただきました。
 そして、私は今日、ほんとうに驚きました。高齢の方々がこれほどご熱心に、グローバルな視野に立って、知識から智慧へ、智慧から実践へ、ということを学んでおられる。
 私は改めて、人生のやり直しというか、これから新たな人生を歩んでいこうという思いになりました。お誘いくださった方に感謝いたします」。
 金子理事長は、一日を通して次のように語った。
 「皆さんの生きていらしたこの70年〜90年は、史上かつてない激変の時代であったわけです。その時代を背景に、皆さんの世代、私の世代、そして私の子どもの世代の間には、その時代のもたらす内面への影響によって大きな格差が生じています。
 そこに世代の断絶が生まれ、結果、会話をしなくなる、そうした時代の中で、このように私の世代と皆さんが語り合い、理解し合おうとすることが、いかに貴重なことかを改めて今日強く感じました。
 戦前の教育を受け、戦前、戦中、戦後を生き抜いていらした皆さんが、当たり前と思っていることが、当たり前でなくなっている時代です。
 そういった、当たり前に思っていたものの中から、大事なものを抽出し、大きく価値づけていかなければならない、その必要性を思います。
 戦争を経験した世代として、もっと皆さんが伝えていかなければならないことがあるのではないか。その認識の上に立ち、変えてはならない価値を、変えてはならないこととして、ぜひ次の世代に伝えていっていただきたいと思います」。
 
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